子どもの頃、家族はとても忙しく、なかなかかまってもらえなかった我が家。しかしわんぱくに遊んでお腹がすけば、工場で焼きたてのお麸の切れ端をおやつにもらい、晩御飯には煮汁がたっぷり染み込んだお麸の煮物を食べ、お麸屋なので当たり前ではありますが、暮らしのそばにはいつもお麸がありました。忙しいながらも工場から漂う香ばしい香りや、家族で囲むご馳走、きっと私が育つプロセスにお麸は欠かせないものだったに違いありません。ぜひ皆さんの家庭でも食育の一つにお麸を加えてもらえたらと、今日はお話をしたいと思います。

お麸のおいしさは、脳に効く?

お麸がよく離乳食に用いられるのには、体に吸収されやすく、消化も良い、加えて高たんぱくな食材だからだと思います。そしてお麸の原料となるグルテンにはグルタミン酸が多く含まれており、これは子どものみならず脳の発達に非常に良いとされています。文四郎のお麸が煮崩れしにくいのは、このグルテンの割合が多いことから。グルテンが多ければ、味をたっぷり染み込ませることができ、またグルタミン酸は旨み成分でもありますから、料理はとても美味しく仕上がるのです。

まずは日々のメニューに、簡単お麸料理。

文四郎麸では、お店に来てくださった方にレシピを提供したり、試食をしてもらいながらお麸について紹介しています。お麸は昔ながらの食材で調理は難しいと思われがちですが、意外と簡単!そして様々なアレンジができることに驚かれます。我が家の食卓で人気のお麩ハンバーグについて妻に尋ねると「お麸と挽肉は1:1の割合で。お麸はフードプロセッサーで粉にしてから牛乳でもどし、挽肉・玉ねぎ・卵と混ぜます。我が家は玉ねぎのシャキシャキ食感を出すため炒めずに混ぜ、香辛料たっぷりに仕上げるのもポイントの一つ。肉だけの時よりジューシーでふっくら仕上がります」と教えてくれました。今では食べ盛りの子ども達にも大満足の定番おかずになっています。おやつに作ってくれるお麸のフレンチトーストも好評でした。これからの季節、すき焼きやお鍋の具としてプラスするのもオススメです。

地域の身近な宝を伝える。 〜お麸を通じた食育活動〜

麸と食育について語る、文四郎麸七代目、齋藤幸信。「心の中の宝が増えることで、子ども達の心はもっと豊かに育ちます」地域の歴史と食文化、友達と食べたお麩の味、家族と一緒の食事の時間、子ども達と一緒に宝を分かち合えるよう、日々活動を続けています。

文四郎麸では、工場見学も行っています。訪れた子ども達は1m60cmのお麸の長さに目を丸くし、実際に体験して職人の技を知り、焼きあがる様子を間近に見て、工場ならではの焼きたてのお麸にジャムをつけて味わい、五感でお麸を感じてもらいます。

また東根市内の小学校に伺い、お麸の歴史について出前講座を行うこともあります。その歴史は江戸時代に始まり、150年も前に東根に伝えられ、今なお食べられているという食文化に興味が深まります。そして30年ほど前から、市内の小・中学校にはお麸の様々なレシピと食材の提供をし、給食にも度々登場するようになりました。煮物だけではなく、酢豚や唐揚げといったメニューは定着し、リクエスト給食として子どもたちから絶賛されるものの中には、鳥のささみとお麸のマリネが入っているそうです。山形の郷土料理、芋煮にお麸が入っているのも東根ならではのこと。学校行事へもお麸を提供しています。子ども達が大きくなった時に、もし故郷を離れてしまったとしても「給食でよくお麸を食べたよね」「芋煮会、東根はお麸が入っていたよね」と話題になってもらえたらうれしいですね。

あなたの側に寄り添って。

しっかりと乾燥し保存の効くお麸は、台所で?乾物?という分類でした。しかし「お麸のコロッケは食感や香りがよく、本当においしい」そう我が家の長男が言っているのを聞くと、昔のイメージとも大分違ってきているのを感じます。核家族が増え、料理に手間暇をかける難しさも問われる昨今。お麸が家庭にとって、ご飯を作る時にぱっと登場し、さらにアレンジも自在、作り手の使い勝手に応じ食卓をより豊かにする存在になれたらなと思うのです。そのためにも、私たちは新しい料理の提案や、おやつや惣菜への加工をしながら、お麸をもっと身近な食材として選んでもらえるよう、取り組みを続けていきたいと思います。