話のたねに、お麩

皆さんはおしゃべりする時、どんな切り口で盛り上げていますか?私は「小さい時どんなお麩を食べましたか?」という質問を投げかけるようにしています。それは私が職人であるということもありますが「お麩」と一言で言っても全国のいたるところにあって、その形や食べ方も様々、話が尽きないのです。お麩はその方が暮した郷土そのものであり、その味はお国自慢、郷土愛に繋がっています。そのうちきっとその人の人柄がほんわかと見えてくるはずです。そして最後には「私もそのお麩、その料理食べてみたいな」という思いがお腹の底からふつふつと湧いてくるかもしれません。それは行って食べてみなければ分からない、地域に根付いた味。今日は各地のお麩に想いを馳せながら、皆さんとおしゃべりして行きましょう。

まずはここから。お麩入門編

正直なところ残念なことに、お麩を作っていても、全国で爆発的に売れたりはしません。それは豆腐や納豆と異なり、各地に食べなれたお麩があるからです。その奥深さがお麩の面白さであり、興味をそそります。

お麩は、基本的に小麦のたんぱく質、グルテンを用いて作られています。加える小麦粉の割合や生地の加工法によって、その後の調理の方法も変わってきます。加工の方法には大きく分けて、?生地を蒸し焼きにするもの、?型に入れて焼くもの、?そのまま直火焼きされるものの3つ。表日本では蒸し焼きや、型焼き、そして裏日本では直火焼きが多いと言われています。

そもそもお麩は室町時代に、中国へ修行に行った僧によって伝えられました。当時はまだ小麦の栽培が少なく貴重なもので、宮中や僧堂で特別な日に食べられる料理として育まれていきました。京都に「生麩」「丁字麩」など品のあるお麩料理が多いのはそういった歴史から。薄く焼いて三温糖で味付けをした「ふの焼」は、秀吉と千利休が開いた、吉野大茶会でも使用された記録が残っています。北前船で物流が盛んとなり、全国各地にその技術が伝えられていきました。また、小麦栽培の発展によって原料も確保され、その地域ならではのお麩が定着していきます。

歴史からお麩を感じて

石川県の金沢には「治部煮」という料理があります。甘い醤油ベースの汁の中に大きめに切られた鶏肉、季節のカブや竹の子といった野菜に、平たい生麩「すだれ麩」。ワサビを添えていただきます。武家から庶民まで広く愛された味ということですが、とても上品な味でした。またお土産品として人気の「宝のふ」。お椀に入れてお湯を注げば、モナカの中からお麩と様々な具が広がり、華やかな土地柄を感じました。

歴史で言えば山形県庄内地方には、酒井藩で推奨していた「板麩」があります。農家の副業として麩焼きが行われ、藩が北前船で上方まで運び販売。まだまだ小麦が貴重な時代ですから、公的な食材として栄えたと言えるでしょう。

ずっしり大きな車麩、ふっくら軽い車麩

東京都でお麩と言うと新潟県の「車麩」を指します。新潟からの安定した物流の流れが、定着に繋がったようです。グルテンに小麦粉を多めに加えた生地を4重巻き、直火で焼いた車麩は非常に大きく、ずっしりと重みが。食べ方としては煮物が一般的です。

沖縄県に行った時に家庭料理としてご馳走になったのは「お麩ちゃんぷる」でした。車麩が原料になっているんですが、グルテンに加える小麦が少なく、蒸し焼き。ふわっとしていて、その軽さに驚きました。そして卵、肉との相性もばっちり。その味は帰宅し、家でもすぐに作ってみたほどです。

様々な形のお麩

お麩の生産が盛んな関西では、お麩をメイン食材として食べるだけではなく、飾りとしての発展もあり、「星型」や「お花型」、色の付いついたものなども。お吸い物にちょっと入れるだけで華やぎますね。

それから山口県にはぷっくりまんまるの「安平麩」があります。仏事の精進料理として育まれ、お吸い物、お味噌汁で食べられるほか、現代では様々な調理で楽しまれているようです。新潟県や宮城県には真ん丸の「饅頭麩」があります。食べ方は主に煮物など同じですが、型焼きされているお麩は作り手の個性がより出るようにも思います。

食べ方、楽しみ方、いろいろ

お麩の歴史の中で、甘いお菓子としての発展があったことを紹介しましたが、蒸し焼きにした甘くふっくら軽い「麩菓子」は全国に広がり、子ども達のお腹を満たしてきました。赤や緑と色のついたもの、黒糖で味付けされたもの、思い出の中の麩菓子は地域によって違いがあるかもしれません。

昭和50年頃、宮城県登米市にある豆腐やさんが、グルテンを揚げて作ったのが発祥と言われている「油麩」。揚げたことでコクと風味が増し、また調理も簡単に。卵でとじた油麩丼は老若男女に人気があります。

岩手県では「生麩の味噌漬け」をご馳走になったことがありました。保存食を究めたその味に、とても感動したのを覚えています。

六田麩街道へ

ちょっとずつ各地のお麩のお話をしてきましたが、まだまだ全国にはもっともっとあるんです。ここまで人々に愛され、進化を続けるお麩ですから、最初に考えた人は本当に素敵な人なんだろうなと、私はいつも想いを巡らせています。文四郎麩のお店2階には資料ルームがありますから、興味のある方はぜひお声がけください。

さあ、各地のお麩について考えていると、最終的には自分の地域のお麩が恋しくなるから不思議ですね。私は知りたいという興味に加え、職人として皆さんに東根六田のお麩をもっと伝えたいと作り続けています。羽州街道が通る東根六田地区は物流の要所として栄え、500年の歴史ある宿場町として賑わってきました。水も良く、小麦の栽培も盛ん、上方の職人によって麩焼きの技術が伝えられ、旅人をもてなしてきたのです。グルテンが多い六田のお麩は、焼き上がりがふっくらきめ細かく、軽やか。煮くずれしにくく、つるりとした舌触りと、しこっとした歯触りが特徴で、今でも多くの方に親しまれる郷土になくてはならない味です。本当においしい、だけど食べてみてもらわなければ伝わらない。やっぱり皆さんにここに来て食べてほしいですね。